フランスではbaguierバギエ(指輪をbagueバーグと呼びます)と
呼ばれるこうしたリングホルダーは、19世紀半ばから20世紀初頭の
ヨーロッパのご婦人達の必需品であると同時にドレッサーを飾る小物
として人気を博したようです。
バカラのトワレット用品にも必ず入っていたアイテムのひとつで、
実際とても便利で綺麗で私も愛用しております。
本品は実用品である前にひとつのビジュー、或いは珠玉の工芸品と
でも呼びたい稀少な逸品です。
無色透明のクリスタルに白エナメル彩で蔦の葉や蔓が全身に小紋の
ように描かれ、青色クリスタルの縁取りや金彩と上品にマッチしており、
大変綺麗です。サインもマークシールもありませんが、クリシーの
製品に間違いないと思われます。
最後の画像はLa Cristallerie de Clichy(2005年出版)という本からの
抜粋ですが、写真は本品と同じシリーズと思われるグラス類一式が
2004年12月のSotheby's(Paris)オークションに出品された折の
カタログの転載で、その解説には「グラスはブルボン・オルレアン家の
紋章、白エナメル彩、金彩、青クリスタルの蛇で装飾されており、
ブラックライトによる検査の結果、クリシー・クリスタル特有の黄緑の
蛍光色が認められた故にクリシー製品と見做される」旨、
記載されています。
因みに私もブラックライト(あまり強力なものではありませんが)を
本品に照射してみましたところ、ウランガラスほどではありませんが
黄緑色が見えました。
総じて良い状態ではありますが、エナメル彩や金彩の落ちはございます。
【サイズ】 高さ(軸を含む):13.6cm 直径(最大):9.7cm
【年代と国】 1845年頃 フランス
【サイン】 ありません。(クリシー製品は通常サインはされず、
小さな紙のシールが貼られていた)