アメジスト色を暈したガラスの表面にエッチングでヒナゲシの花と小さな星が浮き彫りされ更に金彩で縁取りされ、余白がジヴレされたアール・ヌーヴォーな作品です。
1890年代のドーム兄弟社が得意とした手法で、さまざまな図柄が種々のアイテムに展開された代表的なスタイルですが、本品はそうした中でも格別上手にランクされる逸品です。
墨絵のような図柄が素晴らしく、ケシの花のまだ硬く閉じた蕾、開き始めた蕾、咲ききった艶姿、花が終わった後の内に種子を孕んだ花芯などが精緻に描かれ、周りには星が散りばめられて…はかない生、そして延々と続くその連鎖、この世界、果ては宇宙までも暗示しているかのようです。
気付けば、この花器の形そのものがケシの花芯を表しているのですね。
なんと意味深長な、しかもそれをこんな小さな姿に秘めた奥ゆかしさに感じ入ってしまいます。
純度950/1000の銀の台座に据えられておりますが、これは当時の高級品のステイタスシンボル的な仕様であったらしく、バカラの高級品にも見られます。
資料画像は、1998年に東京と名古屋で開催された北澤美術館所蔵ドーム アール・ヌーヴォーガラス展のカタログからの抜粋です。
【サイズ】 | 高さ:10.7cm 胴径(最大):9.1cm 口径:5.5cm |
【年代と国】 | 1890年代 フランス |
【サイン】 | 底に金彩でDaumǂNancy 台座にミネルヴァの刻印とメーカーの刻印 |
【状態】 | 良好。台座に差し込まれた高台部分にカケが ありますが本体に影響ありません。 |