アール・ヌーヴォーのアーティストとして、またグラフィックデザイナーとして巨人的存在のアルフォンス・ミュシャは、当時のあらゆるメディアに作品を提供しました。
大きなものでは広告塔などに貼るポスター、小さなものは切手に至るまで、様々な大衆向けの印刷物を手がけ、名前を知らないまでも彼の作品は当時の誰もが必ずや目にしたであろうほどポピュラーなものだったようです。
レストランやレセプションなどの食卓に添えられる銘々用のメニューカードも多く残っておりますが、本品は珍しい布製のメニューです。
何かの記念の晩餐会など重要な会食の来席者向けに作られたものらしく、絹タフタに多色の絹糸で絵柄が織り込まれた高級品です。
フランスの地方都市St‐Etienneに当時あったリボンやビロードの機械織りで有名な紡織会社J.FOREST&Co.で製品化されたもので、同じ絵柄で色違いが2〜3種作られたようです。
本品は会食の名目やメニューが鮮明に印刷されており、本体も非常に綺麗な状態で保存されております。
因みに古文書としての価値もあり、何も印刷されていない未使用のものより高く売買されているようです。
印刷されている内容は、1905年8月8日にSt‐Etienneで開催された第26回フランス全国地理学会(1821年設立の世界最古の地理学会であるパリ地理学会の全国大会)の会食メニューらしく、要約するとメロン、サーモン、牛フィレ、グリンピース、肥育雌鶏、ロブスター、氷菓、デザート。ワインはブルゴーニュのメルキュレーとシャンパンという豪華メニューです。
資料画像は、2007年5月にパリで開催されたTajanのオークションのwebカタログからの抜粋です。同じタイプの作品で、印刷されたメニューは1903年10月5日にリヨンのレストランで催されたビール製造業者の会食のものとのことです。因みに1000ユーロで落札(+30%手数料)されたそうです。当時のレートで円に換算すると、手数料込で22万円ほどになります。
【サイズ】 | 長さ(フリンジ含む):28.5cm 幅:13.5cm |
【年代と国】 | 1905年 フランス |
【サイン】 | 織りで枠内右下にMucha 枠外左下にJ.FOREST&C° 枠外 右下にSt-ETIENNE |
【状態】 | 良好。額装無し。 |